解説者のプロフィール

坂井学(さかい・まなぶ)
坂井医院院長。1949年鳥取県出身。大阪大学医学部卒業後、大阪府下などの複数の病院で勤務医を経て、1999年に坂井医院(和歌山市)を開設し、現在に至る。坂井医院での診療で延べ15万人以上の患者さんと向き合い、現代医療では治りにくい人の多くを治ゆに導いている。2011年に著書「『体を温める』とすべての痛みが消える」(マキノ出版)を出版して、amazon1位となり、現在もロングセラーを続けている。その卓越した治療法は、健康雑誌として著名な『壮快』『安心』などで掲載される。これまでに招待講演会などを全国各地で100回以上行い、医療に対する根元的な視点を示して強い支持を受けている。
Q.「急性期は冷やしたほうがいい」と聞きますが、 痛みがひどいときでも本当に温めて大丈夫ですか?
A.
急性期でも、「痛み=治ゆ反応」であることに変わりはありません。ダメージを受けた細胞を修復しようと、体がそこに炎症を起こして血液循環をふやしているわけです。
ですから、冷やして炎症をおさえると、治ゆ反応をさまたげることになります。基本的には、急性期であっても温めて血液循環をよくするほうが、治ゆ反応を手助けし、炎症を早く鎮めて痛みをへらすことに役立ちます。
ただし、炎症が強い場合、温めると痛みが強くなることがあります。つらくない程度の痛みであれば、そのまま温めてかまいません。
しかし、痛みがつらいときや、腫れがあまりにひどくなったときには、温めるのはやめて、専門医の診断を受けてください。医学的にじゅうぶんな観察をしていき、後遺症が心配される場合などには、冷やしたほうがいいケースもあるからです。
その確認をきちんと行い、炎症が許容範囲を超えていると判断したときに、適切な治療を行うのが、本来の医師の仕事だと私は考えています。なお、私がカイロで温めることを勧めた患者さんのなかで、急性期でも慢性期でも、温めて後遺症が生じた人は1人もいません。
Q. 夏にカイロを貼ると熱くてたえられません。 どうしたらいいですか?
A.
痛みがある部位は血液循環がほしいところなので、カイロで温めても熱さや不快感はあまり気にならないものです。むしろ、痛みがあるときに、温めたほうが「気持ちいい」と感じる人が多いようです。
カイロを貼って汗をかくようになったり、熱くて不快になったりしたら、それは「もう熱はいりません」という体からのサインです。多くの場合、そのときには痛みはかなり軽くなっています。そうなれば、もうカイロを貼る必要はありません。
再発しないように、前記事で紹介した「細胞が元気になる生活習慣」を実行しましょう。痛みを改善するには、血液循環をよくすることは必要不可欠です。あまり不快にならない方法で、できるだけやってみてください。
A. 夏にカイロを入手する方法を教えてください
A.
痛いところを温めるのに使う使い捨てカイロは、ドラッグストアなどで入手できます。ただし、夏場はカイロが売られている店は多くないので、冬の間に買いだめしておくことをお勧めします。今は、ネットショップでもカイロを購入できます。
坂井医院では、季節を問わずカイロで温めることをお勧めしているので、患者さんがすぐに使えるよう、受付に1年じゅうカイロをご用意しています。
Q. カイロの代わりに「温湿布」で温めてもいいですか?
A.
「温湿布」といわれるものは、製品をよく見ると、たいてい「温感湿布」と表記されています。温感湿布は、「温感」という言葉が示すとおり、「温かい感じ」がするだけです。カプサイシンなどの刺激成分によって、表面的な皮膚の温度を上げているだけなので、体内の血液循環をよくすることにはなりません。
それどころか、温感湿布には通常タイプの湿布と同じように、消炎鎮痛剤がふくまれています。消炎鎮痛剤は皮膚から吸収されて、炎症をおさえて、血液循環をへらすはたらきをします。
温感湿布は温かい感じがするので、血液循環がよくなっているようにかんちがいしがちです。しかし、実は体内では血液循環を悪くしているのです。そうなると治ゆ反応が進まず、細胞のダメージがなかなか修復されません。その結果、痛みがいつまでも長引いてしまいます。
カイロと温感湿布は、まったくちがうものだということを、覚えておいてください。
Q. 低温やけどが心配です。どのようなことに注意すればいいですか?
A.
カイロで温めるときに、いちばん注意してほしいことは、低温やけどです。腹部など、皮膚が弱いところにカイロを貼るときは、患部が赤くなっていないか、くれぐれも気をつけましょう。こまめに様子を見ながら温めてください。
皮膚が弱い人は、カイロを貼る枚数や時間を、あまり多くしないほうがいいかもしれません。
腰にカイロを貼ってあおむけに寝ると、体の重みでカイロが皮膚に密着して、低温やけどを起こしやすくなります。腹部に貼ってうつぶせに寝た場合も同様です。カイロを貼る部位に応じて、姿勢にも注意しましょう。
なお、眠ってしまうと熱さに気づきにくくなるので、原則として、夜間など寝ている間はカイロを貼らないようにしてください。
Q. お風呂で温めるのも有効ですか?
A.
お風呂で温めるのも有効です。しかし、湯ざめをすると逆効果になるので、注意しましょう。
お勧めの入浴法は、38〜40℃ぐらいの熱すぎないお湯に首までつかり、汗をかかないくらいに温まる入り方です。時間は10分だったり、20分だったり、人によってまちまちです。ほどよく温まって、汗が出る前にお風呂からあがりましょう。汗をかいたとしても、うっすら汗ばむくらいにとどめるのが理想です。
半身浴(下半身だけ湯ぶねにつかる入浴法)や岩盤浴、サウナなど、汗がドッと出るような入浴法はお勧めしません。汗をダラダラかくということは、カイロを貼って汗をかくのと同じです。体が「温めすぎです。もう温めなくていいですよ」といっているサインです。
汗をかきすぎるのは、体温を調節するために、細胞によぶんなはたらきをさせていることです。ですから、あまりお勧めできません。特に体調のすぐれないかたが、「温めたほうがいい」とばかりに、たくさん汗をかくことは、危険ですらあります。大切なエネルギーを浪費してしまい、体調が悪化しかねないので、気をつけましょう。
Q. 痛みがあっても、温めていれば 病院へは行かなくていいですか?
A.
痛みの原因が、腫瘍や感染症などによる可能性もないとはいえません。痛みが長引いていたり、「このままほうっておいても大丈夫?」と不安になったりするような痛みであれば、ほかの病気と鑑別(病気を見分けること)するためにも、一度は病院で診断してもらうことをお勧めします。
そのうえで、「脊柱管狭窄症」と診断されたり、すぐに病院で治療を受けるべき病気(例えば、腫瘍や感染症など)ではないことがわかったりしたら、どのような対処法を選択するのか、慎重に考えて決めましょう。
「細胞が元気になる医療」を選択するなら、まずカイロで温めて様子を見ます。それでも痛みがまったく軽くならない、もしくは痛みがさらに強くなる、ひどく腫れてくるといった場合は、専門医に相談してください。
そのときは、できれば「痛み=細胞のダメージの修復」という根本的なしくみを理解している病院にかかりたいものです。設備が整った病院よりも、医師の質を重要視してください。親しいかたの口コミの評判なども、参考にするといいでしょう。
「すぐに手術を勧める」「治療中に痛みをがまんさせる」「痛くても運動しなさい」という病院は、あまりお勧めしません。
Q.「脊柱管狭窄症」に手術は無意味なのですか?
A.
脊柱管が狭窄しているという「かたち」の異常は、多くは痛みの原因とはなりません。
しかし、一部には「かたち」の異常が関与している例もあるようです。「脊柱管狭窄症」と診断された人のなかには、脊柱管を広げる手術をしてよくなった人がいることも事実だからです。
温めるなどの適切な保存療法を行っても、つらい痛みが続く場合には、手術という選択も視野に入れて、状況に応じた対処法を、主治医と相談されることをお勧めします。
おすすめの本
なお、本稿は『脊柱菅狭窄症を自分で治す本』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。