解説者のプロフィール

北西剛(きたにし・つよし)
きたにし耳鼻咽喉科院長。医学博士。1966年、大阪府守口市に生まれる。滋賀医科大学卒業後、病院勤務を経たのち、故郷の守口市で2005年にきたにし耳鼻咽喉科を開院。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会専門医。日本アーユルヴェーダ学会理事長。日本胎盤臨床医学会認定医・理事。日本統合医療学会認定医。日本ホメオパシー学会認定医。そのほか、森林セラピスト、野菜ソムリエ、阪神タイガースネット検定合格など、多彩な活動をしている。主な著書に『耳鼻咽喉科医だからわかる意外な病気、治せる病気』(現代書林)、『難聴・耳鳴り・めまい「治る」には理由(わけ)がある』(ルネッサンス・アイ)、『「うるうる粘膜」で寿命が延びる』(幻冬舎MC)などがある。
▼きたにし耳鼻咽喉科ホームページ
副鼻腔炎とは?
鼻の周囲に、「副鼻腔」と呼ばれる4つの空洞があります。
その4つが、上顎洞・篩骨洞・前頭洞・蝶形骨洞と名づけられています。4つの空間が左右対であるので、総計8つの副鼻腔があることになります。
ちなみに、なぜ、こんなにもたくさんの空洞が存在するのでしょうか。その理由ははっきりわかっていません。
Ⓐ空洞があることで、頭部が軽くなり、首への負担をへらせる。
Ⓑ大きな衝撃が加わったとき、緩衝効果を生み出し、脳を守る。
Ⓒ声を反響させるため。
いろいろな説があります。
これらの副鼻腔は、皆、細い通路で鼻腔に通じています。副鼻腔の中は、鼻腔と同様の薄い粘膜で覆われていて、それ以外は空気で満たされています。この空洞に炎症が起こるのが副鼻腔炎です。
以前は、「蓄膿症」と呼ばれていました。高齢者には、この名前のほうがなじみ深いかもしれませんね。「昔は、青っぱなを垂らした子供たちがよくいたものだ。あの子たちはどこへ消えたのか?」そんな疑問がひっかかっているかたもいらっしゃるでしょう。
ですが、現代においても、副鼻腔炎は悩んでいる人の多い疾患です。
日々、患者さんを診ている医師としての実感からいえば、患者さんの数は、アレルギー性鼻炎&花粉症と並んで多い。つまり、鼻にまつわるトラブルの2大疾患の1つといってよいのです。
原因は?
副鼻腔炎の原因は、いろいろあります。
最も一般的なのが、カゼなどや細菌感染によって、鼻腔に炎症が起こり、それが副鼻腔に広がっていくもの。
カゼをひく→鼻腔内の粘膜が炎症を起こして腫れる・鼻腔の分泌物がふえる→副鼻腔と鼻腔内の通路の通りが悪くなる→副鼻腔内の排泄が悪くなる→副鼻腔炎になる。このような流れになるでしょう。
早い時期に医療機関を受診すれば、たいていは薬の投与によって、通常1~2週間で症状が治まります。それは、「急性副鼻腔炎」に分類されます。
一方、炎症がいつまでも治まらず、慢性化する場合もあります。
放置していたり、治療しても治りきらなかったり、再発をくり返したりしていると、炎症が悪化し、粘膜が腫れて、鼻腔と副鼻腔につながる通路が完全にふさがってしまいます。
すると、副鼻腔の中に膿がたまって細菌が増殖するとともに、粘膜の炎症はどんどん悪化し、さらに腫れていきます。
こうした悪循環が3ヵ月以上続くと、副鼻腔炎が慢性化して、「慢性副鼻腔炎」と診断されます。
症状は?
副鼻腔炎になると、副鼻腔では何が起こっているのでしょうか。
先ほどのくり返しになりますが、鼻腔と副鼻腔の間には細い通路である自然口があります。副鼻腔炎になると、その通路が炎症でふさがってしまうので、副鼻腔内の換気や、たまった分泌物の排出ができなくなります。炎症を起こす原因物質がたまったままなのですから、細菌感染も起こりやすくなります。
こうして事態は悪化し、慢性化し、どんどん治りにくくなっていくという悪循環が起こります。
悪化すると、鼻腔そのものも腫れて、狭くなっているので、いつまでも鼻づまりが治りません。炎症によって黄色や黄緑色の、ドロドロした鼻水が出ます。
鼻腔の天井部分の嗅覚を司る部分も腫れているため、においがわからない、味がわからないといった症状も起こります。
副鼻腔の炎症により、頭重感、頭痛、ほおの痛み、歯痛などの痛みも生じます。
のどに鼻水が垂れる後鼻漏も起こりやすくなります。副鼻腔炎の鼻水は、粘っこくのどにへばりつき、ゴホンゴホンとセキ払いで吐き出そうとしても、なかなか出てきません。こうして、タンや、セキ、口臭などの原因ともなります。
なにより警戒しなければならないのは、こうした鼻水は細菌やウイルスを含んでおり、それがのどや気管へ感染や炎症を広げるおそれがある点です。
ほかにもさまざまなリスクがあり、だからこそ慢性化・難治化させずに治したいのです。
治療法は?
治療は、基本的には、次の2つのアプローチがあります。
①炎症を抑える
②鼻水と膿を出す
副鼻腔に起こっている炎症を鎮める必要があります。炎症が強い場合、抗生剤・消炎薬が必要になるケースもあります。
鼻水と膿を出すためには、鼻吸引措置や鼻腔洗浄を行います。膿の排出を促すため、漢方薬を使うこともあります。
抗生剤の通常投与とは違う方法で、「少量長期投与療法」という方法があります。
使われるのは、マクロライド系抗生剤で、治りにくい慢性副鼻腔炎に、通常よりも少ない量(通常の1⁄2 ~ 1⁄4)を、長期にわたって投与します。通常、抗生剤の投与は2週間までですが、少量投与の場合、それよりも長い期間にわたって使うことになります。
この療法の場合、抗生剤で、単に細菌を殺すというのだけが目的なのではありません。加えて、この抗生剤の持つ免疫を高める力や抗炎症作用もあわせて期待しているのです。
患者さんのなかには、抗生剤について拒否反応を示すかたがいらっしゃいます。
確かに、抗生剤の不適切な過剰投与は、私たちの体に問題を引き起こすリスクがあります。しかし、すべての抗生剤を拒否してしまうことは、やはり賢明ではありません。マクロライド系抗生剤にしても、「何ヵ月も通って、抗生剤を飲んでいるので、体に悪影響がないだろうか」と疑問に思うかたもいらっしゃるでしょう。
しかし、体に悪影響が出ないように抑制した少量の薬を、長期投与することによって、実際に効果が上がっているということも、知っておいて損はないはずです。
薬は、使うべきときを見極めて、適切な量を使うべきです。疑問があれば、担当医に説明を求めてください。
なお、漢方薬としては、粘っこい鼻汁を出しやすくして、鼻づまりを解消する「辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)」、慢性の炎症を鎮めてくれる「荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)」などが勧められます。
漢方薬の場合、患者さんの「証(漢方で考えるその人の体質の特徴)」に合わせて、漢方薬を選びます。漢方薬を試したいかたは、ぜひ漢方に詳しい先生に相談のうえ、利用されることをお勧めします。
手術は?
場合によっては、手術も選択の1つになります。
私が耳鼻科医になったころは、副鼻腔炎の手術といえば、歯茎を切開して、ほおの骨を削り、副鼻腔を掃除するといった大掛かりなものでした。痛く、怖い手術の代表でもあったのです。以前の手術では、副鼻腔の粘膜をすべて除去するといったことも行われていました。
現在では、内視鏡による手術が大きく進歩し、手術中の痛みや、手術後の顔のしびれなどの副作用は大きく軽減されています。ご年配のかたのなかには、まだ昔のイメージにとらわれていて、手術をやりたがらないかたもいらっしゃいます。
しかし、最近の内視鏡手術の進展ぶりをお話しすると、たいてい「それなら」と手術を望まれます。
現在では、小分けされている副鼻腔の空洞の仕切りを取っ払い、空間を広げたり、鼻腔に通じる自然口を広げたりするといった方法も取られるようになっています。これによって、換気をよくしようというのです(それだけ感染が起こりにくくなります)。
加えて薬物療法を行うことで、よくなる事例がふえています。
しかし、慢性化すると、まだまだ難治化することが少なくないのも慢性副鼻腔炎です。できるだけ早め早めの対応が大事であることは、いうまでもありません。
セルフケアは?
慢性化し、治りにくくなっている慢性副鼻腔炎の治療のために、セルフケアが非常に重要になってきます。
というより、通院しながら、必要な処置を受けつつ、セルフケアを地道に徹底することが、なかなか治らなかった慢性状態を快方へ導く近道なのだといってもよいでしょう。
患者さんのなかには、継続して徹底したセルフケアを行うことで、どの病院に行っても治らなかった慢性副鼻腔炎を、見事に克服したかたもいらっしゃいます。
最も基本的な鼻うがいは、ぜひお勧めしたいセルフケアです。
鼻腔の粘膜は、繊毛に覆われ、繊毛運動が行われています。繊毛が、外から入ってきた細菌、ウイルス、アレルギー物質を粘液とともに鼻腔の奥に移動させて、粘膜表面に停滞、付着しないように働いているのです。
副鼻腔炎になると、この繊毛の機能が低下しており、それが炎症を慢性化させる原因の1つとなっています。鼻うがいをすると、この繊毛運動のかわりに、病原体やアレルギー物質を洗い流すことができます。
鼻うがいのほかに、オイル点鼻も勧められます。
おすすめの本
なお、本稿は『慢性副鼻腔炎を自分で治す』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。