解説者のプロフィール

入野宏昭(いりの・ひろあき)
IR健康管理システム入野医院院長 。兵庫医科大学卒業。大阪大学第一内科、大阪医療センター等を経て2009年より現職。日本めまい平衡医学会認定めまい相談医。めまいを内科や脳外科などの観点から総合的に診断治療するほか、インターネット上のめまい相談にも定評がある。
▼入野医院
▼専門分野と研究論文
めまいは5人に1人が悩みを抱える国民病
原因がよくわからず、また、治療効果も実感しづらい「めまい」。めまいは、もはや4~5人に一人は悩みを抱えているという、国民病の一つです。
大阪府にある私のクリニックには、府内のみならず、全国からめまいで悩む患者さんが訪れます。その症状や原因は多岐にわたり、それぞれの複合例も含めると、めまいの診断や治療は、とても複雑です。
ところが、めまいといえば、まず耳鼻科で診断を受け、良性発作性頭位めまい症(耳石が三半規管へ落ちてめまいが起こる)や、メニエール病(めまいや吐き気の発作がくり返し起こる病気で、一般的には耳鳴りや難聴を伴う)といった診断が下されるか、耳性めまいは否定的といわれるのが一般的です。
ただ、これらの診断基準に症状が当てはまらなかったり、診断結果が今ひとつピンとこない。あるいは、治療効果が実感できず、もやもやとした気持ちを抱えながら、転院や再発をくり返している患者さんも少なくありません。
私のクリニックには、こういった患者さんが多く訪れ、内科をメインに耳鼻科や脳外科、ときには神経内科の視点から、総合的にめまいの診断と治療にあたっています。
その中でも、特に注目しているのが「首こり」です。
首がこると、首の筋肉の緊張が強くなり、周囲の血管や自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)を圧迫し刺激します。
自律神経が圧迫されるとそのバランスがくずれ、首の血流が滞ります。すると、耳への血流も悪くなり、平衡感覚をつかさどる三半規管が正常に働かなくなり、めまいを引き起こすのでは、と当院では考えています。

重度のめまいがある人の頸部MRI
重度のめまいがある人の頸部。神経が圧迫されて細くなっているのがわかる。また、椎間板の変性や、脳脊髄液の圧迫所見もある。これらにより、交感神経節の緊張が起き、めまいが引き起こされていると考えられる。
首の左側がこっていることが多い
このような、首に原因のあるめまいを「頸性めまい」といいます。クリニックに訪れる、めまいを持つ患者さんの8~9割は、首こりの症状を持っていることがわかりました。
めまいのほか、頭痛を併発している患者さんは6割ほど、耳鳴りや難聴を伴う患者さんは4割ほどです。このことから、いかに首こりを訴えるめまいの患者さんが多いか、おわかりになるでしょう。
では、具体的に、首こりとはどんなものなのでしょうか。
あごを引いたときに浮き出る、耳の付け根から、首のわきを通る胸鎖乳突筋という筋肉があります。
この胸鎖乳突筋をつまんだとき、痛かったり、ゴリゴリと固まったりしているようであれば、それが首こりだといえます。自覚症状としては、首の付け根から後頭部にかけて重く感じるはずです。
なお、首こりと肩こりは異なるものです。首こりに対応するのは胸鎖乳突筋ですが、肩こりは主に、僧帽筋という筋肉の緊張です。
これまで、首こりとめまいの関連については、医師の間でも、あまり重要視されてきませんでした。神経学的に説明できないと言われていたからです。
しかし近年では、首こりと関連する胸鎖乳突筋から、耳への神経の回路が実験で証明されています。
また、不思議なことに、首こりは左側が圧倒的に多く、右側に症状が出ることはあまりありません。これは、左側にリンパ管が通っているからではないかと考えています。
首こりを招く原因は疲労やストレス、骨格のズレのほか、生活習慣や姿勢も大きな要因です。長時間のパソコン作業で、あごが前へ突き出したままの姿勢では、首の筋肉が硬直してしまいます。
うつむいたままで、スマートフォンを操作したり、寝転がったままテレビを見たり、重いものを持ったりすることも首に負担がかかります。
頸性めまいの症状がある患者さんのMRIを見ると、首の傾きに異常が見られたり、神経が圧迫されている様子も見て取れたりします(上記の写真参照)。
さらに、椎間板の変性や、脊髄液の圧迫などが起こることで、交感神経の緊張が起き、めまいが引き起こされると考えられます。また、合わない枕や、睡眠中の歯ぎしり、交通事故などによるムチ打ち症なども、原因となるので注意が必要です。
おすすめの本
めまいは首をもめば治る (改善率は9割!専門医が勧める「首の3点もみ」)