解説者のプロフィール

新井基洋(あらい・もとひろ)
横浜市立みなと赤十字病院耳鼻咽喉科部長 。1964年、埼玉県生まれ。89年、北里大学医学部卒業。国立相模原病院、北里大学耳鼻咽喉科を経て現職。日本めまい平衡医学会専門会員、評議員。95年に「健常人OKAN(視運動性後眼振=めまい)の研究で医学博士号取得。北里方式をもとにオリジナルのメソッドを加えた「めまいリハビリ」を患者に指導し、高い成果を上げている。『めまいは自分で治せる』(マキノ出版)ほか、著書多数。
▼横浜市立みなと赤十字病院
▼専門分野と研究論文
めまいは寝ていては治らない
めまいと一口にいっても、頭がクラクラする、周囲がグルグル回り吐き気や耳鳴りがする、足もとがフワフワするなど、症状はさまざまです。
耳鼻咽喉科ではそれらの症状を緩和、改善すべく、主として薬物治療を行います。
薬や点滴、注射などでめまいの症状がスッキリ治る人もいます。一方、薬が効かず、めまいやふらつきが慢性化して、仕事を辞めざるを得ない人も少なくありません。
めまいそのもので命を落とすことはなくとも、生活の質は確実に下がり、ひきこもりやうつになる人も多数います。
薬物治療の限界を感じた私は、めまいの治療にリハビリを取り入れることにしました。私が勤務している横浜市みなと赤十字病院の耳鼻咽喉科では、1996年から「めまいリハビリ」の指導を行っています。
めまいリハビリとは、目を動かす、足踏みをするなどして体を動かし、小脳を鍛えるものです。めまいに悩む患者さんは、安静を心がけかちですが、めまいは寝ていては治りません。

小脳を鍛えてめまいを解消する
車イスで入院し歩いて退院!
この20年間で、入院治療では9000人、外来では20万人を超える患者さんがめまいリハビリを行い、つらいめまいを克服しています。現在では、国内全域のみならず、カナダ、ハワイ、ベルギーなど、海外からも患者さんがやってきます。
診察室の外のスペースを使って開いている「めまいのリハビリ教室」では、連日、リハビリに励む患者さんが集まります。
参加者は、外来患者さんのほか、リハビリ入院をしている患者さん。そして、「元・患者さん」たちです。めまいリハビリでめまいを克服し、元気になった人たちが、ボランティアでリハビリの指導に来てくださっています。
治らないめまいを抱えながら、それまで「気合でなんとかならないのか」「気のせい」などと言われてきた患者さんは、自分のつらさを理解されず、深い孤立感をもっています。
リハビリ教室で、「私みたいな人がいっぱいいる!」とわかると、みなさん安心し、心の元気を取り戻します。そうして、自分も先輩に続いてめまいを克服したいと、リハビリに力を入れてくれるのです。
四六時中続く激しいめまいで車イスで入院してきたかたが、晴れやかな笑顔で歩いて退院する姿はけっしてめずらしくありません。
リハビリで小脳を鍛える
なぜ、リハビリがめまいの改善に有効なのでしょうか。
その答えは「小脳」が握っています。
平衡機能は、目(視覚)、足の裏(深部感覚刺激)、耳(前庭器)の3ヵ所から集まるバランスに関する情報を、小脳が集約し、それを大脳が統括して全身に指令を出すことで保たれています。
めまいの原因で多いのが、耳の奥の内耳にある前庭器の障害です。前庭器は体のバランスをつかさどる器官で、三半規管と耳石器からなります。左右の前庭器が正常に働くことで、私たちは体のバランスを保つことができます。

ところが、なんらかの病気で片側の耳に障害が起こると、前庭器の機能に左右差が出てバランスが取れなくなり、めまいが起こります。
この危機的な状況に対応するのが小脳です。片側の前庭器の機能が低下し、バランスが取れなくなると、その情報はただちに小脳に送られます。すると、小脳が左右の差を軽減しようと働き始めるのです。
双発プロペラ機にたとえると、めまいは片方のプロペラが故障し、バランスが崩れて迷走している状態です。このようなアクシデントに見舞われても、日々訓練を重ねているパイロットなら、機体を調整し、バランスを取り戻すことができます。このパイロットが小脳です。
パイロットが毎日訓練をして操縦技術を高めるように、毎日めまいリハビリを行うことで、小脳は片側の前庭器の障害をカバーできるようになります。
めまいリハビリは、平衡機能をつかさどる目、足の裏にも有効な刺激を与えるようにプログラムされており、くり返し行うことで、めまいやふらつきを改善することができます。
次の記事では4種類のリハビリを紹介するので、ぜひ試してください。

平衡機能をつかさどる目にも有効な刺激を与える
おすすめの本
めまいは自分で治せる (8000人の患者を治した「奇跡のメソッド」)