解説者のプロフィール

坂田英明(さかた・ひであき)
埼玉医科大学客員教授・川越耳科学クリニック院長。埼玉医科大学卒業後、帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手を務める。ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科副部長、目白大学保健医療学部言語聴覚学科教授を経て、2016年より川越耳科学クリニック院長。『耳鳴りは1分でよくなる』(マキノ出版)など、著書多数。
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内耳の血管は細くてむくみやすい!
私たちはふだんから、「音が聴こえてあたりまえ」と思いがちですが、そのメカニズムをご存じでしょうか。
音というのは、わずかな空気振動が耳に入ることでキャッチされます。鼓膜が震え、中耳でその振動が増幅されて、内耳に入ると、蝸牛の中に満ちたリンパ液を揺らします。
ここで空気振動が液体の振動に変わり、1万5000個の有毛細胞により、今度は電気信号に変換されます。信号は、周波数や強さに応じて分類されたあと、3万本の神経を伝って、最終的には脳の側頭葉に届き、知覚・認知されます。実に繊細で精密なしくみなのです。
耳鳴りや難聴というのは、この経路のどこかに異常がある状態です。どこか、といっても、トラブルが起こっているのは、ほとんど内耳です。
内耳からくる耳鳴りは、一般に、有毛細胞の摩擦が起こったあとの神経の異常興奮です。金属音や電子音に似た、キーン、ピーン、カチカチ……といったような音を感じやすくなります。
少し難しい話になりますが、内耳に伝わった振動エネルギーを有毛細胞まで運んでいるのがカリウムイオン。そして、内耳の一酸化窒素です。
では、どうすれば必要十分な量の一酸化窒素を、内耳に届けられるのか。「血流をよくする」というのがその答えです。
ところが、そう容易にはいきません。なぜなら、内耳の血管はクモの巣のように細く、ストレスによる負荷やカゼの症状、気圧の変化など、ほんのわずかな影響でむくんでしまい、血行不良を起こしやすいのです。
内耳のむくみは、めまいの原因にもなります。実際に、耳鳴りやめまいの患者さんは、5~6月、9~10月といった季節の変わりめに症状を訴えることが圧倒的に多いこともわかっています。
内耳を子会社とするなら、脳幹や脳は親会社にたとえられます。トラブルが起こっている場所が内耳でも、脳の血流悪化がその一因になっている場合も往々にしてあります。
ですから、耳鳴りやめまい、難聴の治療には、体内の循環をよくしてむくみを解消し、脳を含め全身の血流を極力改善することが、大前提です。
内耳のむくみを取って血流を改善しよう!
内耳のむくみを取り、血流をよくするためにクリニックで患者さんに指導している「寝る前4原則」をご紹介しましょう。
❶ふくらはぎマッサージをする
まず、寝る前の「ふくらはぎマッサージ」をお勧めします(やり方は下図を参照)。代謝をよくしてむくみを取り、内耳のリンパ液や血液の循環をよくするのに役立ちます。特に下肢(下半身)は重力の関係で、血液が心臓に戻りにくいので、下から上に、優しくさすり上げるように行うといいでしょう。
ふくらはぎマッサージのやり方

ふくらはぎを、下から上に向かってさすり上げるように、まんべんなくマッサージする。片足につき3分程度。寝る前に行うとより効果的。
❷寝る3時間前に夕食を終える
食後は、消化のため胃腸に血液が集中するので、脳に十分な血液が行き渡らなくなります。脳の血流が悪いまま眠りにつくと、日中にダメージを受けた神経が修復されず、耳鳴りや難聴の要因になります。夕食は、遅くとも寝る3時間前までに食べ終わるようにしましょう。
❸コップ1杯の水を飲む
高齢のかたは、夜中にトイレに起きるのを嫌がり、水分の摂取を控えがちです。血流が滞ると耳鳴りなどの症状の悪化を招きます。特に入浴前と就寝前には、コップ1杯の水を欠かさないようにしましょう。
❹ぬるめのお湯で半身浴をする
入浴の際は、38~40度のお湯で半身浴をしましょう。熱いお湯に肩までつかるのは、心臓に負担がかかり、内耳にも刺激が大きいのでNGです。ぬるま湯につかってリラックスすれば、ストレスも軽減されます。そうした面からも、耳鳴りやめまいの改善に有効です。
患者さんには、この4原則の実行に加え、耳鳴り・めまい・難聴を起こしやすい要素を、できるだけ排除してもらうよう努めます。例えば、「喫煙」「カフェインを含む飲み物」「有機溶剤を使った毛染め」などは控えるに越したことはありません。
なお、薬の内服でも難治な耳鳴りには、筋肉注射や、鼓室内注入療法といった治療法もあります。
いずれにせよ、原因となるあらゆる可能性を探り、すぐ生活を改める。強い意思を持ちセルフケアに取り組むことができれば、耳鳴りの音は必ず小さくなります。決してあきらめないでください。
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