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【医師監修】めまいがエプレイ法・寝返り体操で治った体験記(第5章)

【医師監修】めまいがエプレイ法・寝返り体操で治った体験記(第5章)

この章では、良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎の症状を、「寝返り体操」などのリハビリテーション(平衡訓練)で、克服されたかたがたの体験手記をご紹介します。【解説】肥塚泉(聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科教授)

解説者のプロフィール

肥塚泉(こいづか・いずみ)
1981年、聖マリアンナ医科大学卒業後、大阪大学医学部耳鼻咽喉科、米国ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科、東大阪市立中央病院耳鼻咽喉科などを経て、95年、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科講師。97年、助教授。2000年、教授。同大学の「めまい外来」を率いて、これまで5万人以上を診察し、問診と検査でめまいを解決してきた。診療のほか、めまい疾患に対するリハビリテーション法の考案や、宇宙酔いに関する研究にも力を入れている。1998年には、NASAとの共同研究によりスペースシャトル・コロンビア号上で、宇宙酔いに関する実験も行った。テレビや新聞などメディアでも活躍中。
▼聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科
▼専門分野と研究論文

グルグル回るめまいが1カ月で完治し恐怖から解放された

症例1 [良性発作性頭位めまい症]
大塚明子さん(仮名)60歳女性 主婦

○怖くて目も開けていられない

私は10年以上、ひどい肩こりと腰痛に悩まされてきました。

2014年、手で持って使うマッサージ器の実演販売をデパートで見かけて、「これはよさそう!」と購入しました。週に数度、1回につき3分くらい、左右の耳の後ろから首すじにかけてと、肩や腰に使いました。振動の強さがイタ気持ちよくて気に入っていました。

ところが1カ月後のある朝、たいへんなことが起こりました。ベッドから起き上がろうとすると、天井がものすごい速さでグルグル回っているのです。

自分と周囲の景色があまりにもグルグル回るので、怖くて目も開けていられません。頭を動かすとグルグル回ることがわかったので、頭を動かさないようにじっとして、めまいが治まるのを待ちました。

「私の体は、どうなってしまったの?」

突然のことで、なにも考えられません。しばらくして、ゆっくりとベッドから起き上がって1階に降りました。すると、今度は部屋全体が回ります。

恐怖を覚えた私は、その日のうちに聖マリアンナ医科大学病院の耳鼻咽喉科に行きました。検査の結果、右耳の良性発作性頭位めまい症(第2章参照)と診断されました。

肥塚泉先生によれば、マッサージ器の振動で耳の奥にある耳石がはがれ、三半規管に入り込んだことで、めまいが起こっているということでした。そんなことがあるのかと驚きました。

めまい止めの点滴をした後、肥塚先生が私の頭を動かし、耳石を元にあった位置に戻すエプレイ法(第2章参照)という治療を受けました。この治療が効き、めまいが少しやわらいで気分もよくなりました。

○1週間後には症状が軽快し始めた

肥塚先生によると、良性発作性頭位めまい症はリハビリテーション(平衡訓練)によるセルフケアが欠かせないそうです。

肥塚先生が勧めてくださった「寝返り体操」(第3章参照)は、耳石が三半規管の中で塊になるのを防いだり、三半規管から耳石を追い出したりする効果があるといいます。

「リハビリで治りますよ」という肥塚先生の言葉に励まされ、病院から帰った翌日以降、朝昼晩に寝返り体操をやるようにしました。

ベッドに横になり、「左、上、右」と声を出しながら、「今、耳の中の石を動かしているんだ」と意識して頭をしっかりと丁寧に動かしました。回数は1度につき10往復、時間にして4〜5分くらいです。

最初のうちは、寝返り体操の最中にめまいが起こりました。それがとても怖かったのですが、めまいを治すために続けました。

すると1週間ほどすると、寝たり起きたりしても、めまいがあまり起こらなくなったのです。10日、2週間、3週間と時間が経つにつれて、めまいの回数はどんどん減り、私の心に居座っていた恐怖感もなくなっていきました。

1カ月経つ頃には、めまいは完全に消えました。そうなると「もう、いいか」と体操をサボりそうになります。でも、私は「毎日3度はやるんだ!」と決めて体操を続けています。

天井も自分もいっしょにグルグル回るという体験は、本当に恐ろしいものでした。しかし今では、「また来るのでは?」という恐怖から解放されて、家事にも集中でき、旅行や買い物もこれまでどおりに楽しんでいます。

めまいを予防するために、のど元を過ぎても、寝返り体操を続けます。

めまいが治って家事も楽しめる!

肥塚先生のコメント

良性発作性頭位めまい症は、耳石が耳石器からはがれて三半規管に入り込むことで発症します。

耳石がはがれる原因の1つに、女性ホルモン(卵胞ホルモン)の分泌の低下があります。これによって骨がもろくなる(骨粗鬆症)のと同様に、炭酸カルシウムでできている耳石ももろくなる(耳石粗鬆症)からです。

大塚さんは更年期を過ぎ、骨粗鬆症のリスクが高くなっていました。そこに、マッサージ器による物理的な刺激が加わったことで、もろくなった耳石がはがれ落ちたのです。更年期以降の人がマッサージ器を活用する場合、頭や首への刺激は避けたほうがいいでしょう。

中高年の女性は、カルシウムをしっかりとる、適度な運動を心がけるなど、骨粗鬆症の対策を行うことで、良性発作性頭位めまい症を予防できます。

大塚さんは熱心に寝返り体操に励んだ甲斐があり、早く回復に向かいました。声を出してリハビリを行うメリットは、回数を正確に数えられる点です。必ずしも声を出す必要はありませんが、「何回やったかわからなくなる」という人は、声を出してリハビリを行うのもいいでしょう。

外出前のリハビリで めまいを自分で予防できる!

症例2 〔良性発作性頭位めまい症〕〔メニエール病〕
鳥山良美さん(仮名)60歳女性 主婦

○「地震はとっくに収まっているよ」

めまいは2012年の春、突然起こりました。

その日は、夕食後にホッと一息ついていた時間帯に地震がありました。「あ、地震だ!」と私は思わず立ち上がりました。体が船に乗っているときのように右に左に持っていかれます。

テレビの画面は、私が住む地域の震度を〝3〟と表示しています。時間にして3〜4分でしょうか、あまりに揺れが続くので、「ずいぶん長い地震ね」と夫にいいました。

すると夫は、「地震はとっくに収まっているよ」と、あっけにとられています。 

「えっ? でも、なんだかすごく揺れてる……」私自身は、波に揺られる小船に乗っている感じが止まりません。夫の言葉で、揺れはめまいによるものだと気づき、家具につかまりながら寝室に向かって、ベッドで横になりました。

翌朝、「もう、治ったかな」とベッドから起き上がったとたん、前日と同じように左右に揺れている感覚が起こり、立つことができませんでした。

脳の異常が心配だったので、近所の神経内科に行きました。夫の車で送ってもらう間も、体がゆらゆらと揺れ続け、不安でいっぱいでした。

CT(コンピュータ断層撮影)検査では異常がなく、「良性発作性頭位めまい症(第2章参照)だろう」ということで、めまい止めを処方してもらいました。

薬を2〜3日飲むと、めまいはほとんど治まりましたが、めまいが起こるたびに薬を飲むのかと思うと、憂鬱でもありました。

○寝返り体操でめまいを予防

私は、できれば薬に頼りたくありません。先々の健康管理を考えると、自分が本当に良性発作性頭位めまい症なのかを知る必要がありました。そこで、専門医の確定診断をもらうために、聖マリアンナ医科大学病院の肥塚泉先生の外来を受診したのです。

目の動きや耳の聞こえなど、いくつかの検査を受けました。その結果、「良性発作性頭位めまい症に特有な目の動きが見られる」ということでした。

また、右耳の聴力が低下しており、メニエール病(第2章参照)も併発していることが判明しました。メニエール病もめまいが起こるそうですが、私にはこれといって自覚はなかったので驚きました。

そして、肥塚先生が勧めてくださったのが「寝返り体操」(第3章参照)です。この体操で、耳石が三半規管の中で塊になるのを防いだり、三半規管から耳石を追い出したりすることができるそうです。

私は外来を受診した翌日から、ほぼ毎晩寝る前にベッドの上で、寝返り体操を5往復やりました。すると、めまいは1週間ほどで完全になくなったのです。それに伴い、体操はお休みすることにしました。

でもその後、なんとなく体がフラッとすることがありました。また、外出が増えたり、親の介護で疲れがたまったりしたとき、夜更かししたときなどに、めまいの症状が出ることもあったのです。

肥塚先生によれば、このめまいこそ、メニエール病の症状ということでした。メニエール病は、精神的なストレスや過労が引き金になるそうです。

でも私は、自分のめまいがメニエール病の症状だとわかっても、不安にはなりませんでした。なぜなら、外出の予定があるときには、出がけに10往復くらい寝返り体操をやっておくと、出先でめまいが起こらないからです。

私にとって寝返り体操は、めまい予防の“特効薬”です。薬に頼らず、自力でめまいに対処できるようになって自信がつきました。

出先でもめまいが起こらない!

肥塚先生のコメント

耳の病気が原因のめまいは症状が非常に激しいため、「脳の病気では?」と不安になり、まず神経内科や脳神経外科を受診するケースが一般的です。

しかし、脳に問題がなく、耳の病気が原因と診断された場合は、放置せずに、ぜひ耳鼻咽喉科で検査を受けてください。例えば、良性発作性頭位めまい症では、エプレイ法(第2章参照)などの理学療法を行い、耳石を三半規管から排出する必要があります。

鳥山さんは、聴力の検査を受けたことで、メニエール病が隠れていることがわかりました。メニエール病や突発性難聴(第2章参照)では、耳石がはがれやすくなり、良性発作性頭位めまい症も併発する可能性が高まります。

鳥山さんは良性発作性頭位めまい症を克服し、リハビリテーション(平衡訓練)をメニエール病および、これによって起こりやすくなる良性発作性頭位めまい症の予防に活用されています。

メニエール病の症状は間隔をおいて現れます。症状がないときには体操を休みたくなる気持ちはわかりますが、回数を減らしてもいいので続けましょう。

トイレにこもるほどのめまいと吐き気がリハビリで解消

症例3 〔メニエール病〕
秋山恵子さん 51歳女性 医局秘書

○においに敏感になり目がかすんだ

30代でメニエール病(第2章参照)を発症し、かれこれ15年が経ちます。最初の発作のときは、グルグル回るめまいとひどい吐き気で、生きた心地がしませんでした。 

ストレスがメニエール病の引き金になるといわれていますが、私もそうだったように思います。

2001年、聖マリアンナ医科大学病院の医局に異動になり、秘書の仕事に就きました。それまで携わってきた事務職では、書類作成が中心でした。しかし、秘書になってからは、電話応対や医師の資料整理、会議の準備など、さまざまな業務に追われ、慣れるまで緊張の連続でした。

半年ほどしてようやく仕事に慣れたある日、体調に異変を感じました。部屋の空気、香水、病院の庭の雑草など、あらゆるにおいに敏感になったのです。

パソコンを見ると画面がぼやけ、目をこらしても焦点が合いません。ひどい肩こりになったかのように、肩がズーンと重くなりました。「おかしいな……」と思った瞬間、激しい吐き気が始まり、目で追えないスピードで景色が右から左に流れ、グルグル回りました。私は這うようにしてトイレまで行き、便器にしがみついて吐き続けました。

発作は勤務中に起こったので、耳鼻咽喉科の外来に行き、肥塚泉先生に診ていただきました。検査の結果、右耳のメニエール病と診断されました。

私は子どもの頃から耳が悪く、ときどきキーンという耳鳴りもしていました。学校の健康診断で引っかかったことはなかったのですが、今回の検査では聴力が下がっていることもわかりました。

しばらく薬を飲み、めまいが落ち着いたらリハビリテーション(平衡訓練)も行うように、肥塚先生からアドバイスをいただきました。
10日ほどして症状が落ち着いたところで、朝晩に「寝返り体操」(第3章参照)を始めました。すると、わずか2〜3日で調子がよくなったのです。

激しいめまいが去った後は、フワフワめまいが残っていたのですが、それがピタッとなくなり、胃のむかつきも消えました。めまいの薬は2カ月でやめ、その後はリハビリのみを行いました。

○リハビリのおかげで発作は激減

メニエール病は、めまいのほかに、激しい吐き気もつらい症状です。

でも、リハビリをやるほど体調がよくなり、吐き気も起こらなくなりました。おかげで、仕事に支障をきたす時間を抑えられ、気持ちも楽になりました。

肥塚先生のアドバイスにより、体調管理にも気を配り始めました。よく眠って疲労をためず、休日はのんびりと過ごすように心がけました。

その甲斐あってか、発作の回数は年々減っています。2014年頃までは年に2回ほど症状が出ていましたが、その後は1回程度です。

リハビリは、メニエール病が発症した最初の1年間は毎日やっていましたが、めまいがめったに起こらなくなって以降、基本的にはお休みしています。

症状が出ると1〜2カ月間リハビリをやり、よくなったらお休み。また症状が出たら1〜2カ月間やる、という感じです。自力でめまいに対処できるので、安心しています。

ところで、不思議なことがあります。肥塚先生が医局をのぞいて私に、「そろそろ検査を受けたほうがいいですよ」とおっしゃることがあるのです。

私としては問題ないつもりなのですが、検査を受けると聴力が下がっていて、その後に決まってめまいが起こります。医局でチラッと顔を合わせるだけなのに……。肥塚先生には予知能力があるのでしょうか。いつか、お尋ねしたいです。

仕事に集中できるようになった!

肥塚先生のコメント

秋山さんのように、職場の異動や転職がメニエール病の引き金になるケースは多く見られます。最近は、中学・高校受験のストレスから、メニエール病を発症するお子さんも少なくありません。

新しい職場、上司、親の期待に応えようとして精一杯に努力し続け、自分でも気づかないうちにストレスをため込み、ある日パンクしてしまう──。

それがメニエール病として現れます。秋山さんが感じたにおいや視力の異変、肩こりも、ストレスのサインだったと思われます。

秋山さんには、めまいや吐き気が強いときには安静にしていただき、急性期の症状が治まった後はリハビリを続けていただきました。めまいの間隔が開いてきたのは、リハビリに取り組み、ストレスや体調をしっかり管理してきた成果でしょう。

秋山さんの質問にも、この場を借りてお答えします。

私には予知能力はありません。ただ、人の表情や歩き方、服装、香水、髪型の変化などから、その人が感じているストレスや体調などを読み取ることは得意です。患者さんと接するうえで、この特技はとても役に立っています。

即効性があってビックリ!5年以上も小康状態をキープ

症例4 〔メニエール病〕
坂本和重さん(仮名)48歳男性 コンピュータエンジニア

○仕事のストレスが引き金に

私は26歳のときに、神経型ベーチェット病(全身の皮膚や粘膜を中心に急性の炎症をくり返す難病・ベーチェット病のなかで、神経系に症状が現れる病気)を発症し、聖マリアンナ医科大学病院に通院していました。

ベーチェット病の症状は人によって違いますが、私はしゃべれないほど痛い口内炎が歯茎や舌にできたり、頭痛がしたり、高熱が1カ月続いたりします。

ベーチェット病を発症して14年後、40歳のときに激しいめまいに襲われました。ひどい二日酔いで、立ち上がれない感じに似ています。あまりに目が回るので、脳が耐えきれなくて気を失いそうでした。

こうした症状をベーチェット病の主治医に相談したところ、耳鼻咽喉科の肥塚泉先生の外来を受診するように勧められたのです。

目や耳の検査を受けたところ、両耳のメニエール病(第2章参照)と診断されました。原因といわれるストレスについては自覚していませんでしたが、肥塚先生から「坂本さんはマジメすぎますよ」と指摘されて気づきました。

その当時、私はコンピュータソフトを開発する会社に勤務していました。お客様から納期を急かされたり、「値引きを!」など無理難題を要求されたりして、交渉に手こずることもしばしばでした。こうしたやりとりがストレスになり、めまいを引き起こしたようです。

でも、ベーチェット病に比べて、メニエール病は対処法がはっきりしているので気も楽です。内耳の水ぶくれを改善する薬は半年ほど服用して中止し、利尿作用のある日本茶かウーロン茶をよく飲むように心がけました。

○体のバランスがしっかりする

肥塚先生が勧めてくださった「寝返り体操」(第3章参照)というリハビリテーション(平衡訓練)も実践しました。このリハビリは即効性がありました。

回数や、頭を動かすときの秒数は決めませんでしたが、とにかく毎朝1度やりました。起きるときにやると、その後の1日がまったく違うのです。寝返り体操をやっておくとフラフラ感が軽減し、体のバランスがしっかりするのがわかりました。自転車にも安心して乗ることができます。

寝返り体操は、メニエール病と診断されて2カ月くらい毎日行いました。

その後、かれこれ5年以上、普段はフワフワもグルグルも起こりません。めまいが起こるのは、ベーチェット病の影響で体調が悪いときと、仕事で強いストレスが重なったときだけです。

めまいが出そうなときには、無理をせずに体を休めて、寝返り体操に励んで予防しています。

肥塚先生は、物事を考えるヒントもくださいました。「“病気は特徴”ととらえると楽になりますよ」と私に教えてくれたのです。「眉毛が太い、唇が厚いなどと同じように、病気は特徴です。眉が太ければ細く描けばいい。自分は悪い病気にかかったと思うと薬に依存してしまう。特徴だと思ったらどうでしょう」

物事のとらえ方を変えると、自分に振りかかった事象が同じでも、マイナスではなくプラスにすることもできる──。私はそう考えるようになってから、つらいことがあったときでも、一瞬でストレスが発散できるようになりました。

ちなみに、私のストレス発散法はラーメンの食べ歩きです。病気の症状がつらくて気が滅入ったときも、おいしいラーメンを食べると気分が明るくなります。

メニエール病を改善できたことはもちろんですが、前向きに生きることを教えてくださった肥塚先生には心から感謝しています。

肥塚先生のコメント

坂本さんは、ベーチェット病の闘病を続けておられます。そうしたストレスに仕事上のストレスが重なり、メニエール病が発症したものと思われます。

メニエール病の患者さんに私がお話しするのは、「逃げ道を作ってください」ということです。ストレスを抱えたままでいると、その閉塞感で自滅してしまい、症状のつらさを助長します。

逃げ道は人によって違います。夢中になれること、没頭できることを見つけてストレスを発散するのが重要です。スポーツもお勧めですが、人とスコアを争うような競技は、ストレスになることもあるので避けましょう。

坂本さんのように、「外出する前に寝返り体操をしておくと、その日は1日調子がいい」という声は、多くの患者さんからも聞かれます。朝起きて体調が普段と違うと感じたら、いつもより念入りに体操を行うといいでしょう。

地震のように揺れるめまいが1カ月のリハビリで完治した

症例5 〔前庭神経炎〕
近田正英さん 56歳男性 外科医

○地面が揺れて歩けない

フラフラする感覚が起こるようになったのは、2016年春のことでした。そのときは、寝不足で疲れているのかなと思いました。しかし、症状は4〜5日かけて少しずつ悪くなりました。地震が起こったときのように地面がゆらゆら揺れて、一日中、気分が悪いのです。

やがて、その感覚は強まり、歩くのにも苦労するようになりました。こんな経験は初めてでしたから、私はパニックになっていました。症状から脳梗塞が心配になり、脳神経外科でMRI(核磁気共鳴画像)検査をしましたが、異常はありませんでした。

そこで、私の勤務先でめまいを専門にしている肥塚泉先生の外来を受診したのです。

検査の結果、前庭神経炎(第2章参照)と判明しました。私の場合は、左耳の前庭神経に障害が起こっていました。前庭神経炎は風邪を引いた後に発症しやすいため、ウイルス感染が原因と考えられているようです。たしかに、症状が出る2週間ほど前に、少し風邪っぽい感じがしましたが、気にならない程度でしたので原因はわかりません。

肥塚先生は、めまいの治療にリハビリテーション(平衡訓練)を積極的に取り入れています。リハビリを行うと小脳が平衡機能を調節して、めまいを改善するということです。

私が教わったのは、「ブラント‒ダロフ法」(第3章参照)というものです。

ふとんの上に正座し、まず左側にパタッと倒れて、斜め上の天井を見ます。そのまま30秒間、頭の位置を保ち、元の姿勢に戻ります。次に、右側にも同じように倒れて元に戻ります。これを5回くり返します。正確に動作を行うために、時計で秒数を測りながら行いました。

○1週間で回復を実感!

リハビリ中に目がグルグル回ることはありましたが、めまいを治したい一心で、私は毎日、朝晩のリハビリを続けました。

私の専門は心臓の外科手術です。当時、手術は問題なく行えましたが、長時間立ち続けるのがつらかったので、短時間で終わる手術のみをしていました。

ところが、リハビリを始めて1週間くらい経った頃、急に症状が楽になったのです。

「小脳が調節をするから、もう薬はいりませんよ」と肥塚先生にいわれ、めまい止めの薬は1週間でやめました。まもなく、ふらつきがほとんど気にならなくなり、体調が順調によくなっているのがわかりました。

地面が揺れる感覚のせいで常に不快でしたが、気分が晴れ晴れしました。おかげで長丁場の手術もこなし、日常生活を取り戻すことができました。

さらに2週間ほどで、めまいは完全に治りました。リハビリは1カ月ちょっと行い、その後の再発はありません。

ちなみに、病気が治ってからは、体をいたわるように生活を見直しました。ストレスや疲れが体調不良の誘因になると思い、夜更かしせずに睡眠をよく取って、無理をしないようになりました。飲み会でも、アルコールはほどほどにしています。

肥塚先生の言葉どおり、脳にはすばらしい調整能力があると実感しています。体の見事なしくみに改めて感動しています。

肥塚先生のコメント

前庭神経炎は原因不明の疾患ですが、ウイルス感染の関与が示唆されています。近田先生の場合は、疲労で免疫力が下がり、ウイルスが前庭神経を攻撃した可能性が高いと考えられます。

前庭神経炎は、リハビリの効果が現れやすい病気です。近田先生のように、しっかりとリハビリに取り組むことで回復は早められます。

前庭神経炎のめまい症状は「まるで大地震が起こったよう」といわれるくらい強烈です。それほどの激しいめまいでも、リハビリによって小脳の働きを高めれば治すことができます。

この病気は再発するおそれはないので、めまいが治った後はリハビリの必要はありません。しかし、大きなめまい発作はないものの、その後、軽いふらつきが続くケースもあります。こうした場合は、リハビリを続けておくことが症状の軽減につながります。

また、健康管理という点で、免疫力を低下させない工夫は必要です。近田先生のように睡眠時間を増やしたり、お酒の量を調節したりして生活を見直すことは、免疫力を保つうえでも重要です。

コラム5
外来ハグ事件!?
患者さんから、思わぬ〝お礼〟をいただくことがあります。
初診で来られた76歳のおばあちゃんは、良性発作性頭位めまい症(第2章参照)で、頭を下げるとめまいが起こる状態でした。律儀な彼女は、めまいのせいでおじぎができないことが苦痛の種でした。
診察と治療を終えた10分後、私に思わずおじぎをした彼女は、頭を下げきったところで、「めまいがしません!」と目を輝かせました。
「あっ!」と思った次の瞬間、私は彼女にハグされていました。周りの患者さんもスタッフも、ひしと抱きしめられる私を見て、目を丸くしています。私も心底びっくりしました。と同時に、こんなにうれしいプレゼントに胸が熱くなりました。医者冥利に尽きる出来事です。
ちなみに、予防でリハビリを続けた彼女は、再発なしで治療を終えました。

なお、本稿は『めまいは寝転がり体操で治る (5万人を治した専門医が直伝!) 』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

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