解説者のプロフィール

肥塚泉(こいづか・いずみ)
1981年、聖マリアンナ医科大学卒業後、大阪大学医学部耳鼻咽喉科、米国ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科、東大阪市立中央病院耳鼻咽喉科などを経て、95年、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科講師。97年、助教授。2000年、教授。同大学の「めまい外来」を率いて、これまで5万人以上を診察し、問診と検査でめまいを解決してきた。診療のほか、めまい疾患に対するリハビリテーション法の考案や、宇宙酔いに関する研究にも力を入れている。1998年には、NASAとの共同研究によりスペースシャトル・コロンビア号上で、宇宙酔いに関する実験も行った。テレビや新聞などメディアでも活躍中。
▼聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科
▼専門分野と研究論文
リハビリを行う際のポイント
これからご紹介するリハビリテーション(平衡訓練)は、さまざまな臨床研究で効果が認められているものです。大きく分けて、次の4種類です。
●寝返りを打つ「寝返り体操」
座った姿勢から横に倒れて起き上がる「ブラント‒ダロフ法」
指先のある場所をイメージする「指はココ!体操」
頭を動かしながら歩く「首振りウオーキング」
リハビリの効果を得るには、正しく行うことが大切です。やり方を説明する前に、ポイントを確認しましょう。
ポイント 1
第1章でご紹介したフローチャートや、医療機関で診断された病名に合わせて、「基本のリハビリ」を選びましょう。
ポイント 2
1日2回、起床時と就寝前に、ふとんやベッドの上で行います。特に、起床時のリハビリは、日中のめまいの予防に有効です。できるだけ毎日やりましょう。
ポイント 3
リハビリは続けることが重要です。回数を半分に減らしてもいいので、症状が消えた後も習慣として続けましょう。めまいの予防になります。
ポイント 4
メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎の人は、部屋を明るくしてリハビリを行いましょう。目からの情報をたくさん小脳に送ることで前庭代償を促し、めまいを改善しやすくなります。
ポイント 5
リハビリを始めると一時的にめまいの症状が悪化したり、ぶり返したりします。これらは、めまいに慣れようとして起こるもので、リハビリが効いている証拠です。「脳ががんばっている!」と思ってリハビリを続けましょう。
ポイント 6
ただし、症状があまりにつらいときは、無理をせず中止してかまいません。
リハビリを行うのが怖い人は、最初は無理をしないことが大切です。回数なども過度に気にせず、できる範囲でやりましょう。
ポイント 7
基本のリハビリの最中にめまいが起こらなくなったら、「リハビリに慣れたサイン」です。
その場合は、下記のメニュー例を参考に、ほかのリハビリを追加することをお勧めします。めまいの改善効果がさらに高まります。
[めまいを治すリハビリメニュー]

寝返り体操
良性発作性頭位めまい症に有効
【このリハビリの特徴】
・三半規管に入り込んだ耳石を排出したり、耳石を散らしたりして塊になるのを防ぐ。
・良性発作性頭位めまい症の人が行う場合は、物理的な耳石の排出や、耳石が1カ所に集まりにくくするのが目的であるため、目は閉じていても開けていてもOK。
・メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎の人にもお勧め。これらのリハビリとして行う場合は、小脳による前庭代償の機能を高めるために、明るい部屋で目を開けて行うこと(天井や壁を見ながら行う)。
【やり方】
[良性発作性頭位めまい症の人]
目は閉じていても開けていてもOK
[メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎の人]
明るい部屋で目を開けて行う

❶ふとんやベッドの上にあおむけに寝て10秒数える

❷寝返りを打つように体ごと左に傾けて、10秒数える

❸再びあおむけに寝て10秒数える

❹寝返りを打つように体ごと右に傾けて、10秒数える
*①〜④を10回行う。1日2度、起床時と就寝時に行う
*左に寝返りを打ったときに、めまい症状が強い場合は、右から始めてもよい
*腰が痛む人は、②と④の際に、頭だけを左右に傾ける形で行う
ブラント‒ダロフ法
メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎に有効
【このリハビリの特徴】
・ドイツのミュンヘン大学医学部神経内科のブラント氏と弟子のダロフ氏が考案した、めまい改善法。
・上体を横に倒す動作はめまいを一時的に誘発しやすいが、くり返し行うことで症状に慣れて、めまいが起こりにくくなる。
・内耳の平衡感覚が低下している人は、上体を横に倒したときに、景色が流れて見える(正常な人は流れて見えない)。
・このエラー情報をくり返し小脳に送ることで、小脳のバランスを取る働きが回復し、めまいが改善する。
【やり方】
明るい部屋で目を開けて行う

❶ふとんやベッドの上に座って、正面(壁)を見る

❷2〜3秒かけて左側に倒れる。このとき、上半身を右側にひねり、目線が45度斜め上になるようにして天井を見る。完全に倒れたら、その体勢で30秒数える

❸ゆっくりと①の姿勢に戻って、30秒数える

❹2〜3秒かけて右側に倒れる。このとき、上半身を左側にひねり、目線が45度斜め上になるようにして天井を見る。完全に倒れたら、その体勢で30秒数える

❺ゆっくりと①の姿勢に戻って、30秒数える
*①〜⑤を5往復行う
*1日2度、起床時と就寝時に行う。回数は多いほうがいいので、1日2度以上やってもかまわない
*左に倒れたときに、めまい症状が強い場合は、右から始めてもよい
*横に倒れる動きができない人は、ふとんやベッドに完全に倒れずに、45度程度でもOK
*体を倒すときに目をしっかり開けて、流れる景色を見るように意識するのがポイント
*天井を眺めるのが難しい場合は、目を開けた状態で、少しでも頭を動かせばよい
*慣れてきたら左右に倒れる速度を上げてもよいが、速すぎると効果が出にくいので1秒以上かけて倒れること
指はココ!体操
メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎に有効
【このリハビリの特徴】
・小脳に「目を正しい位置に調整すること」を学習させる効果がある。これにより、体のバランスを取る働きが回復して、めまいが改善する。
・「左右」「上下」の2種類のやり方があり、両方とも行うとよい。
・左右、上下どちらとも、「指先がココにあるはずだ!」とイメージしながら行うこと。
・前述の「ブラント‒ダロフ法」に慣れたら、このリハビリを追加することで、めまいの改善効果が高まる。
【やり方】
[左右バージョン]

❶片方の腕を前に伸ばし、人差し指を正面に立て、目線を人差し指に固定したまま、左右に頭を10回(5往復)振る

❷目を閉じて、①で見た人差し指の1点が「ここにあるはずだ」とイメージしながら、同様に左右に頭を10回(5往復)振る
*頭を左右に振る速さは2回(1往復)で1秒程度が目安。めまいや違和感が強いときは、もう少し遅いペースから始めてもOK
*頭を振る範囲は「人差し指を見失わないギリギリの角度」が目安
*1日2度を目安に行う。回数は多いほうがいいので、1日2度以上やってもかまわない
[上下バージョン]

❶片方の腕を前に伸ばし、人差し指を水平方向に立て、目線を人差し指に固定したまま、上下に頭を10回(5往復)振る

❷目を閉じて、①で見た人差し指の1点が「ここにあるはずだ」とイメージしながら、同様に上下に頭を10回(5往復)振る
*頭を上下に振る速さは2回(1往復)で1秒程度が目安。めまいや違和感が強いときは、もう少し遅いペースから始めてもOK
*頭を振る範囲は「人差し指を見失わないギリギリの角度」が目安
*1日2度を目安に行う。回数は多いほうがいいので、1日2度以上やってもかまわない
首振りウォーキング
すべてのめまいに有効
【このリハビリの特徴】
・「首かしげウォーキング」と「うなずきウォーキング」の2種類があり、どちらも目と足裏の感覚を効果的に刺激する。
・それにより、体の位置や動きに関する情報を小脳にたくさん送ることで、小脳による「前庭代償」の機能が促進されて、めまいが改善する。
・良性発作性頭位めまい症、メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎、いずれのめまいにも有効。
・前述の「寝返り体操」や「ブラント‒ダロフ法」と併用して行うと、めまいの改善効果がより高まる。
【やり方】
[首かしげウォーキング]

❶目の前にある物体のうち、比較的近いものと少し離れているものの2種類を見つける(例えば、遠くにある建物と近くにある木など)
❷左右に10〜20度くらい、首を交互に傾けながら、近くのものを見続けて10歩、遠くのものを見続けて10歩、まっすぐ歩く
*2歩進むごとに1回首を傾けるくらいの早さで(4歩で左右1往復)
*歩く速度は普段どおりでOK
*周囲の安全を確認して、人やものにぶつからないように注意する
*1度でも2度でもいいので、外出時に意識的に行う

[うなずきウオーキング]
❶目の前にある物体のうち、比較的近いものと少し離れているものの2種類を見つける(例えば、遠くにある建物と近くにある木など)
❷上下に10〜20度くらい、首を交互に傾けながら、近くのものを見続けて10歩、遠くのものを見続けて10歩、まっすぐ歩く
*2歩進むごとに1回首を傾けるくらいの早さで(4歩で上下1往復)
*歩く速度は普段どおりでOK
*周囲の安全を確認して、人やものにぶつからないように注意する
*1度でも2度でもいいので、外出時に意識的に行う
「めまいのリハビリ」Q&A
Q 良性発作性頭位めまい症では、何割くらいの人に効果がありますか?
A 良性発作性頭位めまい症は、「寝返り体操」で患者さんの7割が治癒します。早い人は数日、遅くても1カ月以内にめまいが解消するケースが多いです。
患者さんを見ていると、きちんとリハビリに取り組む人ほど、効果が早く得られます。
Q 病気の種類によって、リハビリの効果に違いはありますか?
A 効果が出るまでの期間は、内耳の障害の程度によって異なります。
メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎で、どちらかの耳が悪い場合は、10日程度で自覚症状の改善が見られます。検査ではおおよそ1〜3カ月ほどで、眼振と体の揺れの改善が確認できます。
Q 両方の内耳が悪い場合でも、リハビリは効きますか?
A 左右両方の内耳に障害が起こっている人の場合、症状の改善までに1〜2年かかることがあります。
しかし、あきらめることはありません。リハビリで目や手足の感覚を刺激し、小脳を活性化することで、徐々に症状は軽快していきます。
Q ストレスが原因のメニエール病には効果がないのでは?
A リハビリは、メニエール病のめまいにも有効です。安心してください。
メニエール病は、症状によいときと悪いときの波があります。患者さんの様子を見ていると、ストレスが多いときに症状が出やすいようです。
そこで、リハビリと併用して、散歩やウオーキングなど軽い運動を日課にしてストレス解消を図るのがお勧めです。
Q リハビリは血圧が高くてもできますか?
A 血圧が高い人は、寝たままできる「寝返り体操」を行うといいでしょう。
Q 効果が現れにくい人もいますか?
A 「症状が100%消えないと納得できない」という完璧主義の人や、ストレスが強い人は、効果が現れにくい傾向があります。
一方、ものごとが思いどおりに進まなくても「まっ、いいか」と大らかな人には効果が得られやすいようです。
Q 服用中の薬はいったん中止したうえで行うのですか?
A メニエール病やめまいを伴う突発性難聴などでは、比較的に長期にわたって薬が使われることがあります。
しかし、これらの病気でも、急性期を過ぎればリハビリを開始するほうがよいと考えられます。その場合は、薬の服用を続けながらリハビリをしてください。
前庭神経炎も、しばらくその機能を回復することを目的に、服用中の薬を続けながらリハビリを行いましょう。
一方、良性発作性頭位めまい症については、服用中の薬はいったん中止してリハビリを開始してよいと思われます。
しかし、いずれにせよ、服用の自己中断はお勧めできません。かかりつけの医師に相談したうえで判断してください。
ひたすら説明の毎日
リハビリで治るのに、「薬が欲しい」という患者さんがいます。
そうした人には、どんなスポーツや習いごとでも、練習せずに急にうまくなる薬など存在しないこと、めまいを治すために行うリハビリも、これと同じであることをお伝えしています。お話に20〜30分かけて、ついに患者さんは納得してくださいます。
私は大阪出身です。一般的にせっかちな大阪の人間が、こんなに手間暇をかけるのは珍しいのです(もちろん、例外もあると思いますが)。なぜなら、めまいを治すために行うリハビリの指導は、時間がかかるのに料金は発生せず、病院のメリットが少ないからです。薬を出したほうが、お金になってずっと楽なのです。
でも、めまいが治って笑顔で帰る患者さんを見ると、やっぱり誰かが説明しなければいけないと思います。ですから今日も明日も、説明の日々が続きます。
なお、本稿は『めまいは寝転がり体操で治る (5万人を治した専門医が直伝!) 』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。
▼めまいを自分で治すには、わずか1種類のリハビリを行うだけでOK!▼どこの病院へ行っても治らなかった人、薬が手放せなかった人、怖くて外出できなかった人、そんな5万人以上の症状を改善させた特効リハビリを4つ厳選して、本書でご紹介します。▼良性発作性頭位めまい症、メニエール病、突発性難聴に伴うめまい、前庭神経炎、などそれぞれの病気に対応するリハビリを1つ、朝と晩にふとんの上で行いましょう。▼本書は、めまいに悩む人でも活字が追いやすいように、文字を大きくし、イラストも多用しています。▼壁に貼って毎日の継続を後押しする「やり方ポスター付録」と「めまい改善ダイアリー」つき。▼自分の症状に合ったリハビリたった1つで、長年悩まされた症状が改善していくことでしょう。▼めまいは、もう怖くありません!