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【眩暈 めまいとは?】薬で治りづらいめまいの評価と診断・チェックリスト(第1章)

【眩暈 めまいとは?】薬で治りづらいめまいの評価と診断・チェックリスト(第1章)

めまいは体のバランスを保つ働きに障害が起こることで生じます。リハビリを続けるほどに治癒率は高くなります。めまいを治す回路はあなたの体にきちんと備わっています。笑いと希望をもってめまいを治していきましょう。【解説】肥塚泉(聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科教授)

解説者のプロフィール

肥塚泉(こいづか・いずみ)
1981年、聖マリアンナ医科大学卒業後、大阪大学医学部耳鼻咽喉科、米国ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科、東大阪市立中央病院耳鼻咽喉科などを経て、95年、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科講師。97年、助教授。2000年、教授。同大学の「めまい外来」を率いて、これまで5万人以上を診察し、問診と検査でめまいを解決してきた。診療のほか、めまい疾患に対するリハビリテーション法の考案や、宇宙酔いに関する研究にも力を入れている。1998年には、NASAとの共同研究によりスペースシャトル・コロンビア号上で、宇宙酔いに関する実験も行った。テレビや新聞などメディアでも活躍中。
▼聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科
▼専門分野と研究論文

はじめに

めまいを治したければ、リハビリテーション(平衡訓練)1つから始めましょう」これが、私から皆さんに最初にお伝えしたいメッセージです。

私が率いる聖マリアンナ医科大学病院の耳鼻咽喉科外来には、めまいを訴える人が多数、受診されます。これまでに私たちが治療にあたった患者さんは、5万人を超えました。

めまいの治療で私が重視してきたのは、患者さんが自分の力でめまいを治せるように、リハビリをしっかりと指導することです。

めまいは、体のバランスを保つ働きに障害が起こることで生じます。最も多い原因は、耳の病気です。

体のバランスを取る平衡感覚は、左右の耳の奥にある内耳がつかさどっています。なんらかの病気によって、一方の内耳の平衡感覚が低下すると、左右のバランスが乱れて、めまいが起こります。

しかし、人間の体は実にうまくできています。脳の一部である脳幹と小脳が働いて、病気になったほうの耳の働きをカバーし、左右のバランスを修復しようとするのです。

この脳幹と小脳による修復機能を「前庭代償」といいます。強烈なめまいの症状も、時間の経過とともに、ある程度は弱まっていきます。これは、脳幹と小脳によるバランスの修復が進むからです。

この記事でご紹介するリハビリには、この脳幹と小脳、特に小脳の働きを活性化して前庭代償を促し、めまいを改善する効果があります。

めまいがよくなるまでの期間には個人差がありますが、リハビリを続けるほどに治癒率は高くなります。


何年間もめまいを抱えて、「どうせ治らない」とあきらめている患者さんも、リハビリを始めると症状が改善し、沈みきった顔に笑顔が戻ります。薬が不要になり、体調に自信を持てるようにもなります。

一例ですが、外来を卒業された患者さんの声をご紹介しましょう。
めまいの恐怖から解放されました(67歳女性)
趣味だった社交ダンスを再開しました(83歳男性)
海外旅行に行けるようになりました(73歳女性)
薬に頼らず職場復帰できてうれしいです(42歳男性)

あなたも、めまいがなかなか改善せず、不安感やあきらめを抱いていませんか?「年のせいですよ」「めまいとは一生、つきあっていきましょう」などと医師からいわれて、希望を失っていませんか?

あなたの悩みを解決する第一歩は、めまいが起こるしくみと、ご自身のめまいの原因になっている病気について理解することです。

次に、リハビリの実践です。ここでは、4種類のリハビリを厳選して紹介します。その中から自分のめまいのタイプに合った「基本のリハビリ」を、1つ行うだけでOKです

ちなみに、「寝転がり体操」は、寝ながら左右に転がる「寝返り体操」と、座った状態からバタンと左右に寝転ぶ「ブラント‒ダロフ法」の2つの動きを掛けて、表現したものです。慣れてきたら、ほかのリハビリを組み合わせると、より効果的でしょう。

でも、まずは1つで大丈夫です。わずか1種類のリハビリで、めまいの改善に大きな効果を上げることができるのです。

めまいがよくなれば、外出も思いのままです。仕事に打ち込めますし、やりたかった趣味も再開できます。本来の生活を取り戻すことで、気持ちも明るくなるでしょう。


めまいの治療において、私がリハビリテーション(平衡訓練)の重要性を確信したのは、1998年のことです。米国テキサス州にあるNASA(アメリカ航空宇宙局)が計画した、宇宙での実験に参加したことがきっかけでした。

当時、NASAはスペースシャトル上で行う研究を公募していました。採用されたアメリカの研究者の案を、アメリカと日本、フランスの3カ国で共同研究を行うことになりました。

この頃、私は特殊なイスを使って耳石器の研究をしていました。そして、スペースシャトルの搭乗員が宇宙を飛行する前後の耳石の状態を、このイスで研究することが計画され、この研究を続けてきた私に白羽の矢が立ったというわけです。

こうして、同年4月に打ち上げられるスペースシャトルのコロンビア号を利用して、「宇宙酔い」に関する実験を行うことになりました。

NASAとの共同研究に参加する著者(手前)

車に乗って起こる車酔い、船に乗って起こる船酔いと同じように、宇宙船に乗っても乗り物酔いが起こります。これを宇宙酔いといいます。どんなに地上で訓練しても、初めて宇宙に出た宇宙飛行士の約70%が、打ち上げ後の30分から数時間で宇宙酔いを起こします。

今とは違って、当時は宇宙の滞在期間は2週間でした。宇宙酔いは1〜2日続きます。その間は吐き気、嘔吐、めまい、頭痛、食欲不振などの症状に悩まされます。

わずか2週間の貴重なミッションで、そのうち2日間も宇宙飛行士が使いものにならないとあっては大問題です。ミッションを成功させるうえで、宇宙酔いの克服は大きな課題でした。


私たちが注目したのは、宇宙における耳石器の働きでした。耳石器は体の傾きや前後・左右・上下方向の移動を感知する器官です。

頭や体を動かすと、耳石器の中にある耳石が重力や体の傾き・移動によってずれます。この耳石の動きを感覚細胞がとらえることで、自分の体の傾きや位置がわかります。

しかし、宇宙には重力がないので、耳石は耳石器の中で動かずに浮いたままの状態になり、地上にいるときと同じように働くことができません。これが原因で、宇宙酔いが起こるといわれています。

我々の実験では、コロンビア号に搭載した特殊なイスに宇宙飛行士を座らせ、水平にグルグル回しました。一定速度でイスを回すと遠心力が生じます。地球上でこの実験を行うと、遠心力だけでなく重力が加わるため、イスに座っている人は全身が斜めになっているような〝傾き〟を感じるのです。

一方、同じことを無重力の環境でやると、遠心力しか働きません。そのためイスに座っている人は理論上、全身が〝移動し続ける感覚〟を抱くはずでした。

宇宙酔いの実験を行ったイス

ところが、実験に参加した4人の宇宙飛行士の全員が、〝移動する感覚〟ではなく、地上にいるときと同じ〝斜めになる感覚〟を覚えたのです。なぜ、宇宙飛行士たちは無重力の状態にいながら、地上にいるときと同じ感覚を持ったのでしょうか?

ポイントは、イスが回転している間、遠心力によってイスと接している背中やお尻で、ずれる感覚が生まれることです。また、ひじや体の脇には、回転中のイスから圧される感覚(圧刺激)が伝わります。

つまり小脳は、地上で学習したバランスの記憶と、背中や腰などから送られてくる深部感覚をすり合わせて、無重力の状態であっても、地上にいるのと同じ感覚を再現してみせたのです。

「この実験結果は、患者さんの治療に還元できる!」と私は確信しました。

無重力で左右の耳石の働きがゼロになった状況でさえ、小脳は体のバランス感覚を調整できたのです。リハビリを行えば、目や手足の筋肉、関節などから、体の動きや位置などを知らせる情報が増えます。小脳がそれらの情報を活用して、バランスを回復させる新たな回路をつくり出すことで、めまいは改善に向かうのです。

私は、コロンビア号での実験以降、めまいの治療にリハビリをどんどん取り入れるようになりました。その後のいきさつは、記事内で詳しくお伝えします。


めまいに悩んでいる人に、私がぜひ伝えたいのは、「人間の体は、私たちの想像をはるかに超えて精緻にできている」ということです。

めまいを治す回路は、あなたの体にきちんと備わっています。

毎日、1つのリハビリを実践すれば、その回路が働き始めます。少しずつでもいいので、今日からリハビリを始めてみませんか。笑いと希望をもって、めまいを治していきましょう。

ここで、私にめまい研究をするきっかけを与えてくださった故松永亨 大阪大学名誉教授、めまい研究のご指導を賜った故久保武 大阪大学教授、宇宙医学研究のきっかけを与えてくださった故五十嵐眞 慶應義塾大学名誉教授に、深謝の意を表させていただきます。  

グルグル、フワフワ、クラッは全部めまい

めまいとは、自分や周囲のものが動いていないのに、動いているような異常な感覚を指します。ひと口に「めまい」といっても、その感じ方は次のようにさまざまです。

・天井がグルグル回る
・谷底に吸い込まれそうな気がする
・頭がクラクラする
・スポンジの上を歩いているようにフワフワする
・目の前の景色が上下、左右に流れる

また、めまいには嘔吐や頭痛、冷や汗などの症状を伴うことが少なくありません。ある日、突然に目が回って吐き気がしたら、誰しも怖くなって助けを呼びたくなるでしょう。

聖マリアンナ医科大学病院に救急車で搬送された患者さんのうち、2.6%、およそ50人に1人がめまいを訴えての受診でした(2008年)。救急車を呼ぶほど、強い恐怖を感じる症状というわけです。

患者さんの年代は、男女ともに40代から増加し、70代でピークを迎える傾向があります。男女比については、およそ男性3割、女性7割の比率となっています(2016年6〜11月の統計)。

めまいと聞くと、脳の病気を思い浮かべる人も多いようです。しかし実際には、めまいの7割は耳の病気が原因です

耳の奥にある内耳には、音を聞き取る働き(聴覚)と、体のバランスを感じ取る働き(平衡感覚)があります。耳になんらかの障害が生じて平衡感覚が低下すると、めまいが起こるのです。

脳の病気が原因で起こるめまいは1割程度です。しかし、数が少ないとはいえ、命にかかわる危険なケースがあるので注意が必要です。

心臓病や動脈硬化、過労、頸椎(首の骨)の変形なども原因になります。

めまいが起こったとき、それが危険なめまいかどうかは、めまいの現れ方である程度の見当がつきます。以下の3つのタイプに分けて考えましょう。

[回転性めまい]
自分自身や周囲の風景が、グルグル回っているように感じるめまいです。吐き気を伴うケースも多く、実際に嘔吐することもあります。

回転性めまいは症状が激しいので、立つ、歩くといった動作もできなくなる場合が多く、患者さんは大きな不安を抱きます。しかし、このタイプの多くは内耳の病気が原因なので、多くの場合、命にかかわる心配はありません。

ただし、回転性めまいに加えて、手足のマヒやしびれ、激しい頭痛、ろれつが回らない、ものが二重に見えるといった症状がある場合は、脳梗塞や脳出血など脳の病気が疑われます

命にかかわる可能性があるので、救急車を呼ぶか、神経内科や脳神経外科を至急、受診してください。

「回転性めまい」
自分自身や周囲の風景がグルグル回っているように感じるタイプ

[浮動性めまい]
体がフワフワと宙に浮く、足元が定まらないなどと感じるめまいです。体がふらついたり、まっすぐ歩けなくなったりします。耳の病気のほか、過労や睡眠不足、ストレス、脳の病気によっても起こります。

「浮動性めまい」
体がフワフワ、フラフラと揺れているように感じるタイプ

[立ちくらみ]
急に立ち上がったときに起こる、クラッとするめまいです。目の前が真っ暗になったり、気が遠くなったりすることもあります。

このめまいは、血圧の調整をつかさどる自律神経(意志とは無関係に内臓や血管を調整している神経)の働きがなんらかの原因で乱れて、脳の血流が一時的に不足することで起こります。

立ちくらみそのものは命にかかわりません。しかし、トイレや駅のホームなどで、いきなり倒れると危険なので注意が必要です。

また、高齢者の場合は、不整脈による前失神(失神の一歩手前の症状)である可能性もあるので注意しましょう。

「立ちくらみ」
急に立ち上がったときにクラッとしたり、目の前が暗くなったりするタイプ

ここがポイント!
・めまいには回転性めまい、浮動性めまい、立ちくらみがある
・原因は耳の病気、脳や心臓の病気、ストレスなどさまざま
・手足のマヒや激しい頭痛もあれば至急病院へ

簡単診断!めまいチェックテスト

耳や脳になんらかのトラブルがあるかどうかは、次の方法でもわかります。

[目の動きをチェック]
眼球の動きは自分では確認できないので、家族などに見てもらいましょう。

❶自分の目から20㎝ほど前で、巻尺(メジャー)を横方向に引きます。
❷巻尺の目盛を目で追いかけます(右へ60㎝を3秒くらいの速さで、1秒休んで左へ同じく60㎝を3秒くらいで)。

結果判定
目盛りを追う眼球が小刻みに揺れたら正常です。揺れない場合は、脳になんらかの異常のある可能性が考えられます。念のために神経内科を受診しましょう。

「目の動きをチェック」
目の20cm前で巻尺を横方向に引き、目盛を目で追いかける様子を協力者に見てもらう。その際、目盛を追う眼球が揺れない場合は要注意

[腕の位置をチェック]
❶目を閉じて、両腕を正面で上げ下げします(肩の高さから真上の範囲内で)。
❷1を10回くり返して、腕の動きを正面で止めます。

結果判定
目を開けて、腕の高さが左右で10cm以上違っていたら要注意です。右腕が低ければ右耳、左腕が低ければ左耳の内耳の働きが落ちている可能性があります。

「腕の位置をチェック」
目を閉じたまま、両腕を正面で10回上げ下げして、腕を正面で止めて目を開ける。腕の高さが左右で10cm以上違っていたら要注意

[文字のズレをチェック]
❶イスに座り、白い紙に黒いボールペンで自分の氏名を縦に書きます。その際、ペンを持たない手は、机に触れないように太ももの上に置きます。ペンを持つ手は、机に触れずにペン先のみが用紙に接するようにします。
❷①で書いた氏名の第1画目の書き始めに、赤いボールペンの先を置きます。
❸目を閉じて、①と同様に自分の氏名を縦に書きます。

結果判定
赤色で書いた文字が、左にずれたり右にずれたりしている場合(角度にして10度以上)は、一方の内耳に異常のある可能性が考えられます。

「文字のズレをチェック」
ペン先のみが用紙に接するようにして、黒いボールペンで氏名を縦に書く。次に、第1画目の書き始めに赤いボールペンの先を置き、目を閉じて、同様に氏名を書く。赤色の文字が、黒い文字よりも左右に10度以上ずれたら要注意

これらのチェックはあくまで目安ですが、1つでも当てはまる場合は「めまい予備軍」です。まだ症状がなくても、将来に症状の出る可能性があります。耳の健康診断を受けるつもりで、耳鼻咽喉科で検査を受けましょう。

ここがポイント!
・「目の動き」で脳の異常をチェックできる
・「腕の位置」で内耳の異常をチェックできる
・「文字のズレ」で内耳の異常をチェックできる

平衡機能を調整する3つの感覚器

ご紹介するリハビリテーション(平衡訓練)は、耳の病気が原因で起こるめまいや、ふらつきの改善に効果を発揮します。

リハビリのやり方は第3章でご紹介します。まずは、体のバランスを保つ働きからお話ししましょう。

私たちは通常、デコボコした地面の上でも急な上り坂でも、立つ、歩く、走るなどの動作をバランスよくこなすことができます。この体のバランスを取る働きを「平衡機能」といいます。めまいは、平衡機能が障害されることで起こるのです。

下のイラストで示すように、平衡機能は3つの感覚器から発信される情報によって調整されています。具体的には、以下のとおりです。

耳は、体の回転や動き、重力などを感じ取る(平衡感覚)。
目は、周囲の景色を見て、体の位置などを感じ取る(視覚)。
全身の筋肉・関節は、体の姿勢などを感じ取る(体性感覚・深部感覚)。

私たちは体性感覚・深部感覚を普段ほとんど意識しませんが、この感覚によって、目を閉じていても、体の位置や動きを知ることができるのです。

そして、各感覚器の情報を脳幹や小脳が集めて、自分の体がどのように動き、どこにいるのかなど、バランスに関する情報を整理します。整理された情報をもとに、全身、特に首や脚の筋肉が収縮したり弛緩したりして、体のバランスを調節します。

このように、体のバランスは主に、脳幹や小脳と感覚器の情報のやりとりで成り立っているのです。

そのうち、両耳の「前庭器」は、とりわけ重要な働きをしています。めまいの大半が耳の病気として起こるのも、前庭器の役割が大きいからといえます。次項で耳の構造に触れながら、前庭器の働きを説明しましょう。

ここがポイント!
体にはバランスを保つ「平衡機能」が備わっている
平衡機能は目、耳、全身からの情報で成り立つ
両耳にある前庭器はとりわけ重要な働きをする

めまいはなぜ起こる?

耳は外側から、外耳、中耳、内耳に分けられます。

最深部である内耳には、聴覚をつかさどる「蝸牛」と、体のバランスをつかさどる「前庭器」があります。前庭器は、三半規管と耳石器からなります。

三半規管は体の回転運動を感じる器官です。3つの半円の管からできており、それぞれの管は「前半規管」「後半規管」「外側半規管」と呼ばれています。前半規管と後半規管は垂直方向の回転運動を感じ、外側半規管は水平方向の回転運動を感じます。

三半規管の内部はリンパ液(内リンパ液)で満たされており、その流れ方から頭や体がどのような速さで、どの方向に回転したかを感じ取るのです。

耳石器は、卵形嚢と球形嚢という2つの袋状の器官からなります。その中には、炭酸カルシウムでできた小さな結晶(耳石)が入っています。頭を動かすと耳石も動き、その動きを感覚細胞がとらえて、上下方向、前後方向、左右方向の体の動きや傾き、重力などを感じ取ります。

三半規管と耳石器が働くことで、私たちは空間を立体的にとらえることができる、というわけです。

つまり、片側の耳の前庭器は3つの半規管と2つの耳石器からなり、合計5つのセンサーが体のバランスを取る働きをしているのです。

どちらかの内耳のセンサーが故障した場合には、当然、脳に送られるバランスの情報に左右差が生じます。

例えば、実際には「頭が右に30度傾いている」とします。ところが、故障している側のセンサーからは「頭の位置はまっすぐだ」という誤った情報が脳に送られます。

左右の前庭器から送られる情報にこうしたズレが生じると、体のバランスを取るための情報が脳にうまく伝わらなくなります。こうして、脳が誤った情報によって混乱することで、めまいを感じるというわけです。

前庭器がトラブルを起こすと、その情報は脳の神経回路に伝わり、さまざまな体の反射を引き起こします。

例えば、動眼神経など眼球の動きを制御する神経に伝わると、眼球の動きを調節できなくなり、眼球が無意識に水平または上下に動く「眼振」が起こります。すると、目が回ったり、ものがぶれて見えたりします。

また、脊髄(背骨の中を通る神経の束)の運動神経に伝わると、体が左右に揺れたり、足元がふらついたりします。自律神経に伝わると、吐き気、冷や汗などが引き起こされます。

こうしためまいを引き起こす内耳の病気は、主に4つあります。詳しくは次章でお話ししますので、ここでは名称だけ知っておきましょう。

良性発作性頭位めまい症
メニエール病
めまいを伴う突発性難聴
前庭神経炎

このように、めまいを生じる病気には、さまざまなものがあります。

しかし、めまいの持続時間や伴う症状などから、ご自身の病名を探ることができます。医療機関で診断がついている人もいると思いますが、再確認する意味で下記の「めまいの診断フローチャート」をお試しください。

もちろん、確定診断は医師によってなされるものですが、参考になると思います。それぞれの病気の解説と、各病気に対応する「基本のリハビリ」は、第2章と第3章で詳しくご紹介します。

[めまいの診断フローチャート]
「はい」か「いいえ」で答えて、次の方向へ進みます。行き着いた先が予想される病名です

めまいを感じたら、早めに耳鼻咽喉科へ。
上記に当てはまらない場合は、薬物によるめまいや、ストレスなどが原因の心因性めまいの可能性も

ここがポイント!
・めまいの大半は内耳の病気で起こる
・前庭器の不調が原因となることが多い
・めまいを起こす病気は主に4つ(良性発作性頭位めまい症、メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎)

めまいは薬で治らない

めまいは、症状が強い「急性期」と、病気自体は完全に治っていないものの症状がある程度治まっている「慢性期」に分けられます。

急性期は、目がグルグル回る、嘔吐する、ムカムカが止まらない、冷や汗が吹き出すなど、ひどい車酔いにも似た状態です。あまりにも症状がつらいために、精神的に不安定になる患者さんも多く見られます。

この段階においては、症状をやわらげたり改善したりする薬物療法が有効といえます。主に用いられる薬は以下のとおりです。

・吐き気止め(プリンペラン)
・酔い止め(トラベルミン)
・めまいに対する不安や恐怖感を取り除く精神安定剤(セルシン)
・めまい止め・血流改善薬(メリスロン、セファドール、メイロン)

なお、吐き気があって薬を飲めない人には、注射や点滴で薬を用います。

急性期の過ごし方は、安静第一です。静かな暗い部屋で、楽な姿勢を取って体を休めましょう。症状が激しい期間は、短い人で数時間、長くても1〜3日間ほどです。

一方、めまいはほとんど消えたのに、なんとなくフワフワする感じが続く人、体がフラフラする人、あるいは忘れた頃にグルグルするめまいをくり返す人がいます。

そうした慢性期の症状を軽くするためにも、薬が必要になることはあります。特にメニエール病では、しばらくの間、浸透圧利尿薬という体内の水分排出を促す薬が使われることがあります。

また、めまいを伴う突発性難聴に対しては、低下した聴力の改善を目的に、ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤などが用いられます。

しかし、これらを除けば、薬物療法はあくまで「対症療法」であり、めまいを薬で根本的に治すことはできません

急性期を過ぎて慢性期に入ったら、安静はNGです。

「不調だから横になりたい」という気持ちはわかりますが、体を動かさないと筋力・体力ともに低下し、全身の血流も悪くなります。耳の血流が悪くなれば、内耳の働きも回復しません。

そこで、こうした急性期を過ぎた人に、ぜひ取り組んでいただきたいのが、ご紹介するリハビリなのです。詳しくは第3章に譲りますが、記事の続きでは、めまいの主な4つの病気にそれぞれ対応する「基本のリハビリ」をご紹介します。

たった1つのリハビリから、めまいは改善できます

最初は回数をこなせなくてもかまいません。少しずつでもいいので、まず始めてください。リハビリなくして、めまいは改善しません。その理由は、次項でお話ししましょう。

ここがポイント!
・症状が強い急性期には薬物療法が有効
・しかし慢性期では多くの場合、薬でめまいは治せない
・急性期を抜けたらリハビリに励む

リハビリで脳幹と小脳が活性化する

リハビリのポイントは、脳幹と小脳による「前庭代償」というしくみです。

脳幹は、大脳と脊髄をつなぐ、キノコでいえば足のつけ根の部分にあります。めまいが発症した早期は、主にこの部分が積極的に働いて、徐々にめまい症状が軽くなっていきます。

つまり、どちらかの前庭器の平衡感覚が低下して左右のバランスが乱れた場合に、それを調整する働きがあるのです。これが「早期の前庭代償」です。

一方、小脳は後頭部の下方にあり、体の運動全般を調節する働きをしています。前述したように、目や耳、関節・筋肉などの感覚器から情報を集め、体のバランスを取る働きもしています。

そして、低下した前庭器からの情報に対して、目や関節・筋肉などの感覚器からの情報のズレを再調節して、バランスを調整する働きがあります。これが「中期・後期の前庭代償」です。

前庭代償は、もともと体に備わっているしくみです。急性期を過ぎて、めまいが慢性期に入ると、この前庭代償が働き始めます。ただし、自然に任せておくだけでは、前庭代償に時間がかかります。そこでリハビリの出番です。

ご紹介するリハビリは、前庭代償に関与する脳幹と小脳のうち、特に小脳を活性化して、中期・後期の前庭代償を促し、めまいの改善をスピードアップする作用があるのです。

脳幹・小脳を活性化させて前庭代償を促すのがリハビリの目的

平衡感覚が低下し、左右のバランスが乱れた状態

乱れたバランスを脳幹や小脳が調整しようとする

リハビリを続けることで、以下の3つの“効果”が得られます。

❶めまいに慣れる(慣れ)
頭や上半身を動かすリハビリを行うと、初めはめまいがひどくなるケースがあります。しかし、あえてめまいを起こすリハビリを続けることで、めまいに対する“慣れ”が生じ、めまいを感じにくくなります。

❷目の動きを調整してめまいを起こしにくくする(適応)
平衡感覚が正常に保たれているとき、眼球は頭の動きと逆方向に動くように調整されます。頭を右に動かすと眼球は左に、頭を左に動かすと眼球は右に動き、その後は正面に戻ります。

しかし、耳の平衡感覚が低下すると、その影響で目の動きが調整できなくなり、眼振が起こります。例えば、右耳に障害が起こった場合、頭を右に動かしたときに、目は頭部とともに右に動いてから中心に戻るという動きをくり返します。こうなると視点が定まらなくなって、めまいを感じるのです。

目を動かすリハビリを行うと、こうして目の動きが一時的に乱れます。しかし、リハビリを続けるうちに、小脳はその乱れに適応し、バランスを立て直す回路をつくります。その結果、めまいが起こりにくくなるのです。

❸目や筋肉・関節からの情報を増やしてバランスを回復する(感覚代行)
ご紹介するリハビリには、「目や頭を動かす」「体を左右に倒す」「頭を動かしながら歩く」などの動作があります。

これらの動作を行うと、耳の平衡感覚、目の視覚、筋肉・関節の体性感覚・深部感覚が刺激されます。これにより、体の動きや位置、回転、重力といったバランスに関する情報が、小脳にふんだんに送られます。

このとき、前庭器の平衡感覚が低下していても、ほかの感覚器からの情報で補うことで、小脳は「どうすればバランスが取れるか」を学習し、体の運動を調整するようになるのです。


つまり、リハビリをやればやるほど小脳の学習量は増え、バランスを取るための新しい回路がつくられます。それにつれて、めまいは改善していきます。よく「体で覚える」といいますが、実は「小脳が覚えた」のです。そして、小脳に学習を促す最善の方法が、リハビリを続けることです。

めまいのリハビリには、さまざまな種類があります。私は国内外の研究で「効果的」と判定されている手法を患者さんに指導しています。今回の記事では4種類のリハビリを厳選しました。詳しいやり方は、第3章でご紹介します。

ここがポイント!
・脳幹や小脳には左右のバランスを修復する働きがある(前庭代償)
・リハビリで前庭代償を促すことでめまいが改善する
・本書では最大限の効果が上がるリハビリを厳選

コラム1
めまい診断に用いられる主な検査
●目の動き(眼振)を調べる検査
めまいが起こっているときには、眼振(前述)が現れます。揺れる向きなどを観察することで、内耳のどこに異常が生じているかがわかります。
●体のバランスを調べる平衡機能検査
直立姿勢や足踏み運動、文字を書くなど、いろいろな方法を用いて、体のバランスに異常がないかどうかを調べます。
●耳の聞こえを調べる聴力検査
さまざまな周波数の音を使い、耳の聞こえや難聴の程度を調べます。
●脳の状態を調べる画像検査
MRI(核磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)などの検査で、脳の異常の有無を調べます。

なお、本稿は『めまいは寝転がり体操で治る (5万人を治した専門医が直伝!) 』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

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耳鳴りやめまい、難聴の患者さんに指導している「寝る前4原則」は、❶ふくらはぎマッサージをする、❷寝る3時間前に夕食を終える、❸コップ1杯の水を飲む、❹ぬるめのお湯で半身浴をする、です。【解説】坂田英明(埼玉医科大学客員教授・川越耳科学クリニック院長)
更新: 2020-04-23 06:30:00 公開: 2020-04-23 06:30:00
耳鳴り・めまい・難聴は「これだけやれば治る」という方法はありませんが、逆にいえば、さまざまなアプローチにより改善が可能ということ。食べ物で耳鳴り・めまい・難聴をよくするという手も、当然、あります。【監修】坂田英明(川越耳科学クリニック院長)
更新: 2020-04-21 06:30:00 公開: 2020-04-21 06:30:00
下肢静脈瘤の治療をめぐる悪徳医療機関によるトラブルは以前よりふえています。いちばんおすすめするのは、まず、かかりつけ医に相談することです。お世話になっているかかりつけ医に率直にきいてみてください。【解説】広川雅之(お茶の水血管外科クリニック院長)
更新: 2020-07-07 09:00:00 公開: 2020-07-07 09:00:00
現在、血管内治療で主流なのは、血管内焼灼術で、レーザー治療と高周波治療の2種類があります。また、グルー治療など熱を使わないで血管をふさぐNTNT治療は、下肢静脈瘤の治療を根本から変える画期的な治療と期待されています。【解説】広川雅之(お茶の水血管外科クリニック院長)
更新: 2020-07-06 09:00:00 公開: 2020-07-06 09:00:00
下肢静脈瘤に関する大きな誤解が、「下肢静脈瘤を放置すると血栓ができやすい」というものです。肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)は普通の日常生活を送っている限り、引き起こされることはまずありません。【解説】広川雅之(お茶の水血管外科クリニック院長)
更新: 2020-07-05 09:00:00 公開: 2020-07-05 09:00:00
下肢静脈瘤は、どのような人に起こりやすいのでしょうか。さまざまな要因が考えられますが、立ち仕事をしている人は、下肢静脈瘤の患者さんのなかで圧倒的多数を占めます。【解説】広川雅之(お茶の水血管外科クリニック院長)
更新: 2020-07-04 09:00:00 公開: 2020-07-04 09:00:00
下肢静脈瘤で代表的なのが、大伏在静脈や小伏在静脈の逆流防止弁がこわれて起こる伏在型静脈瘤です。これ以外に側枝型静脈瘤、網目状静脈瘤、クモの巣状静脈瘤、陰部静脈瘤という軽症タイプの下肢静脈瘤もあります。【解説】広川雅之(お茶の水血管外科クリニック院長)
更新: 2020-07-03 09:00:00 公開: 2020-07-03 09:00:00

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